STORY

こんにちは、種を育てる研究所(以下、タネラボ)の日向優(ひなたゆう)です。

 

タネラボは、北海道十勝の陸別町という場所で、2021年に誕生しました。

 

ここでは、関西から夫婦2人で移住してきた私たちが、どういう経緯で陸別町に来たのか?なぜタネラボを起業したのか?についてお話いたします。

陸別町との出会い

陸別町に移住してきたのは2017年でした。

それまでは、大阪にある製薬会社で夫婦共々「新薬の研究開発」という仕事をしていました。

 

研究者としては大変ながらも充実した日々が続いていましたが、30歳を過ぎた頃から、進むべき道について深く考えるようになりました。

 

「研究以外にも、自分たちの経験が役に立つ仕事や活動があるのではないか?」


そんなことを2人で漠然と考えていました。

 

夫の私は北海道札幌市出身。妻は広島県尾道市出身。北海道大学薬学部の同級生ですので、2人とも北海道のことは良く知っています。そのため、転職や移住先候補に「北海道」という選択肢を自然と考えるようになりました。

 

何かのきっかけにと思い、2014年秋に開かれた北海道移住フェアに出向きました。たまたまお話しした陸別町の担当者に「1週間のお試し移住」を提案され、翌年、軽い気持ちで陸別町を訪れました。

しばしの都会生活を離れた1週間の移住体験でした。人口2,000人程度の小さな町である陸別町はとても新鮮で、特に、素朴な町内のお祭りには田舎の良さを感じ、心にぐっときたのを覚えています。また、陸別町の天文台で行われた、地元の小学生によるリコーダーコンサートも鑑賞しました。町内から大人たちが大勢訪れ、家族や親せき関係なく子供たちを応援し見守る姿にとても感動し、この町の良さを実感しました。

 

滞在中に、陸別町が町の新産業のために薬用植物栽培を新たにはじめたことや、それを支援する地域おこし協力隊を募集する予定であることを知りました。薬用植物や漢方は薬学部時代に授業では習うものの、専門分野ではありませんでした。しかし、「薬」に関わる仕事でもあり、貢献できる可能性があると感じました。また、地域の課題解決を行う地域おこし協力隊制度は、自分たちのやりたいことに合った制度で魅力的でした。

 

夫婦共々陸別町のことを大変気に入りましたが、ほかの地域のことも見てみようと、2016年に気になった別の2地域で移住体験をしました。その上で、最終的な移住先として陸別町を選択し、製薬会社を退職後、2017年秋に移住陸別町での新たな生活がスタートしたのです。

仕事は夫婦それぞれ「陸別町地域おこし協力隊」で、夫の私は「薬用植物栽培分野」を、妻は「商工観光分野」を担当し、地域活性化に取り組む活動を開始しました。

地域おこし協力隊時代

陸別町は2014年から、町の農業の活性化のために漢方薬向けの薬用植物栽培事業を開始していました。まずは陸別町という気候や土壌でうまく育つかを確かめるべく、カンゾウやキバナオウギ、コウライニンジンなど10種類以上の試験栽培に取り組んでいたのです。これらの薬用植物は「医薬品になる」といっても、植物であることに変わりはありません。したがいまして、農業の知識が必要です。
農業の経験が無かった私は、日々栽培管理を行いながら知識を身につけ、時には名寄市にある医薬基盤研究所薬用植物資源研究センターに泊まり込んで研修を受けるなど、ゼロからこの分野を学んでいきました。また、例えばカンゾウは漢方薬に使用されるだけでなく、食品の甘味料としても使われるといったように、「漢方薬以外の用途」もあることを学び、その点に大変興味を持ちました。これをきっかけに、栽培試験と並行して「収穫物をどのように活用するのか」という検討を行うようになりました。

 

妻は商工観光の担当で、町には「天文台」や「観光鉄道」、「道の駅」などの観光施設があり、それに関わる町内商工業者も多くいることから、人脈づくりやそれらを発信することなど仕事が多岐にわたり大忙しでした。それらの経験を元に、町内の「銀河の森天文台」の魅力を発信するイベントとして、コーヒーを飲みながら宇宙の講話を聞く「コーヒーナイト」などいろいろなイベントを企画しました。天文台のスタッフと試行錯誤しながら企画し、町内外から多くの参加者が訪れたことは自信につながりました。現在タネラボとして、町内の事業者さんに多大な協力を得ておりますが、協力隊時代に妻が築いた人脈や信頼関係が無ければあり得なかったと思っています。

 

私は栽培した薬用植物を活用しようと、キバナオウギの葉をお茶にした「オウギ葉茶」やコウライニンジンを使った「高麗人参飴」を商品化したり、薬膳料理の試食会や町の給食センターと連携して給食メニュー化を行ったりしました。(オウギ葉茶や給食メニュー化は、タネラボの活動として続いています)

 

このように書くと、夫婦それぞれ充実して活動していたに思えますが、やっている最中は大変なことばかりで、常に悩み、時には「移住という選択は正しかったのか」と思うこともあったのは事実です。

 

ですが、いつも応援してくださる方々、励まし合う仲間がいてくれたお陰で、3年間の協力隊としての任務を全うできました。この場を借りて感謝いたします。

「薬用植物」の難しさ

地域おこし協力隊の任期中、薬用植物に関する活動を通して色々なことがわかってきました。

国産の薬用植物は、北海道を中心に全国各地で栽培されていますが、ほとんど全ての薬用植物は漢方薬原料(生薬)となり、それ以外の用途に使用されることはあまりありません。ですので、漢方薬を飲まない一般の方にとっては、国産の薬用植物を使った商品に巡り会う機会はほとんどありません。

 

薬学を学んできた私にとって、この事実は大変残念でした。

薬用植物には、機能性食品や化粧品等の商品に使用されるべき素晴らしい「薬効」があるからです。

 

ではなぜ、国産の薬用植物を活用した商品(漢方薬以外)が生み出されにくいのか?

 

それは、「薬用植物を育てる人」と、それを「活用できる人」が両方とも少なすぎるからです。

 

「育てる人」ですが、薬用植物の栽培には、一般の植物とは異なった知識やコツを身につけなければなりません。例えば、種苗の入手先も限られてきますし、使用できる農薬の種類も一般作物と比較して格段に少ないです。

 

「活用できる人」ですが、商品を作る際に薬効が絡んできますので、科学薬事などの薬学的な知識が必要です。例えば、漢方薬原料となるべき植物を道の駅などで勝手に販売すると薬機法違反となりますし、健康食品として著しく高い成分含有量の商品を販売し健康被害を引き起こしてしまう可能性もあります。

 

このように両者とも、薬用植物の特性に合わせた専門的な知識が必要です。

 これらの知識を持った、「育てる人」と「活用する人」がうまくマッチングし、お互いに協力し「6次産業化」すれば、注目される商品が生み出される可能性が高いと考えられますが、やはりそれぞれの人材がレアですので、出会う確立が低いというのが現状です。

  

そのような中でも最近では、奈良県富山県岐阜県などで、産学官が連携した薬用植物を軸としたプロジェクトが見られるようになってきました。農・薬・医・食・観光・教育など多くの分野の人々を巻き込んだこれらの活動は、私にとっては大変嬉しく、国産薬用植物の発展が期待できます。

 

では陸別町でできることは何なのだろうか?

 

私は、「自分が栽培して、自分で活用すればよいのでは」

 

そう思いました。

 

自分で活用することを前提に栽培品目を決めることで「作りすぎ」などの無駄が出ないし、もっと欲しければたくさん種を蒔けばいい。トレイサビリティーの観点からも、自分で育てれば間違うことはありません。

 

・個人で薬用植物栽培を行う

・漢方薬向け以外の用途で栽培する

・栽培だけでなく、薬用植物の6次産業化を行う

というのは、私が知る限り全国的に見ても極めて珍しいです。

 

こんなことを考えたのですが、「果たして本当にうまくいくのか?」という問いへの答えは、「やってみなければわからない」でした。

 

こうして、地域おこし協力隊の任期の残り数ヶ月は、自らのアイデアを形にするための準備をすることになりました。

ちょうどその時期に、娘が誕生し、激動の時期となったのですが、たくさんの方々の支えのお陰で、次のステージへと進む準備ができたのです。

タネラボの誕生

2021年2月22日、「種を育てる研究所」を夫婦で立ち上げました

 

「種を育てる研究所」という名前には2つの意味が込められています。

 

第1は、文字通り、植物の「種」からスタートし、栽培した収穫物を使って様々な商品を創り出す、ということ。

第2は、陸別町では薬用植物で誰も事業化しておらず、土台は全くありません。ゼロから新しい産業を作り出すこと、つまり種をも生み出し、そしてその種を育てていくことをイメージしました。

 

タネラボのビジョンは、

地域から発信する商品・サービスによって、人々が心身ともに健康で美しくなる」。

薬学を学んできた私たちにとって、人々の「健康と美容」に寄与したいという気持ちは変わりありません。

 

栽培する植物は、日本の薬用植物だけでなく、西洋ハーブ類も加えました。ハーブを加えることで、より多様な商品を創ることができ、多様な方々のニーズに応えることができます。

これまでにほとんど例が無い、「日本の薬草と西洋ハーブを組み合わせた商品」を開発しようと、日々研究しているところです。

 

実際に栽培する品目は、「商品イメージ」を先に決めてから選定しています。

例えば、「この薬効があるこういうコスメを作りたい」というイメージが最初にあり、「その薬効成分を持つ植物は何か」を調べます。そして、「その植物が陸別町で育つのか」、「まずは栽培してみよう」という流れで考えていきます。

 

一般的な地域発の商品は、「既に地元にある素材を使い、それをどのような商品にしていくか」という流れが多いと思いますので、タネラボの商品開発は順番が逆だと言えます。

タネラボの現在と今後

coming soon...