「太陽と畑のハンドクリーム」の開発物語
<きっかけ>
「タネラボを支援したい」
ある日、とてもありがたい話をいただきました。
陸別町内の建設会社、石橋建設さんからのお話でした。
資金などをご提供いただける代わりに、
地域の将来のために、何か新しいこと・面白いことをやってほしい、と。
かつて陸別町の地域おこし協力隊として活動していた
私たち夫婦にとって、
地域の事業者さんからこのような提案をいただける日が来るとは
全く想像していなかったですし、
涙が出るほど嬉しかったです。
「せっかくならタネラボも、石橋建設さんも、陸別町民も、
関わる全ての皆さんが幸せになれるような面白い取り組みを行いたい―。」
そんな想いを持ちながら、
どんなことを始めようか日々考えを巡らせていました。
すると、これまで陸別町での生活を通じて
「これどうにかならないのかな」と思った自身の経験や、
「こんなことに困っているんだよね」という町民の声が
いくつも思い出されました。
そしてそれが、「陸別生まれの新しいハンドクリーム」
という商品を通じて解決できると考えたのです。
<陸別の気候と産業>
私たちタネラボは農家です。
自分たちで畑をつくっていると、
夏場は軍手を着用しての作業を強いられます。
汗で手が蒸れたり、手の脂が軍手に奪われて乾燥したり、
手の荒れはなかなかよくなりません。
さらに、-30℃にもなる厳しい陸別町の冬場は、
手にとっては厳しい乾燥との戦いでもあります。
陸別町は、タネラボのように一次産業に関わる人だけでなく、
石橋建設さんのような土木建築業に従事する方も多い町。
大事なライフラインである道路の管理、
もちろん冬場には除雪作業も担うなど、
町民の生活になくてはならないお仕事です。
暑い日も寒い日も、外で作業をするその手は、
常に過酷な環境に置かれています。
「この町の産業を支える人には手荒れに悩む人が多いのかもしれない…。」
実際、皮膚トラブルを抱える町民が周りにたくさんいました。
頑張る手を手荒れから守ることは、
ひいては陸別町の産業を支えることにも
繋がるのではないかと考えたのです。
立てたコンセプトは、
「男性でも使いやすい、外で働く人のための業務用ハンドクリーム」。
作業中、または外作業から帰ってきて
オフィスや家で手軽に使えるハンドクリームを目指しました。
このコンセプトを石橋建設さんに提案したところ、
「それは社員にもよろこんでもらえそうだ。」と、
商品開発にご協力いただくことを快諾いただきました。
<試行錯誤の末に>
いつか化粧品開発を行いたいと考えていた私たちは、
起業当時から、化粧品原料として優れた効果がある
複数の薬用植物・ハーブ栽培を実施していました。
その中から優れた保湿作用・肌荒れ防止作用を持つ
「ムラサキ(紫根)」、「トウキ(当帰)」、
「カレンデュラ(トウキンセンカ)」の3種を選びました。
この中には病害虫に非常に弱い植物もありますが、
冷涼で湿度が低く晴天率も高い陸別の気候は
致命的な病害虫が発生しにくいため、
無農薬栽培が可能となっています。
これらの植物エキスを使って試作品をいくつか作り、
まさに現場で働く石橋建設さんの従業員の方に
モニターになってもらいました。
使用感やべたつき、そして香り…。
当初は無香料が好まれると考えていましたが、
意外にも、男性でも香りがあるほうが好きだということもわかりました。
ご意見を反映させながら
試作を繰り返し…着想から2年。
季節問わず太陽のもとで働く方の手を
陸別町の畑で育まれた植物で守りたいー。
「太陽と畑のハンドクリーム」が出来上がりました。
陸別町産3種の植物エキスと、レモングラス精油のほのかで爽やかな香りが特徴です。
パッケージは
陸別町の静かな日常の中にある、
太陽と畑をイメージしたもの。
仕事場に置いても自然でありながらも、
黄色が印象的で、
男女問わず手に取りやすいものにしました。
<エゾシカの脂も>
さらにもう一つ、商品開発でこだわった点。
それはエゾシカ脂を使用することでした。
エゾシカの肉は陸別町の特産品です。
地域おこし協力隊をしていたころ、
エゾシカ肉の加工品製造のお手伝いをさせてもらうことがありました。
肉の大きな塊から一口サイズに切り分ける作業の際、
「脂身は臭みになるから、そぎ落としてね」
そう教えてもらいました。
十勝地域でエゾシカのハンターをしている方からも、
「脂の使い道はないだろか」
そんな話を聞くこともありました。
一方、エゾシカ脂には、
保湿効果が期待でき、
すでに化粧品に使われている実績があることも知りました。
溶ける温度が人間の体温と近いため、
肌によく馴染むのも特徴です。
北海道、特に道東地域では、
道路や人が生活する場所の周辺でエゾシカを見かけるのは日常茶飯事。
車との衝突事故も年々増加しています。
また、一次産業が基幹産業であるこの地域にとっては、
農作物の食害も課題です。
今後も、この地域で暮らす人とエゾシカが、
よい関係でともに暮らしていくため、
余すことなく、大事に命をいただく。
この商品がその一助になればと。
そんな思いから、
このハンドクリームにはエゾシカ脂を配合しました。
また、この商品の売り上げの一部は、
エゾシカに関する保護管理、普及活動、
人材育成を行う一般社団法人エゾシカ協会へ寄付することとしました。
<商品化の先に>
2021年、タネラボを起業したときに、一つ大きな目標を掲げていました。
それは「化粧品の加工所をもちたい」ということでした。
なぜなら、私たちは薬剤師免許を持っていて、
化粧品製造所に必要な総括製造販売責任者になることができます。
そして、この北海道道東地域にはない化粧品製造所ができれば、
北海道の1次産業から生まれたものを、
この北海道内で、より付加価値の高い商品にできると考えたからです。
もちろん、設備投資資金やノウハウなど準備しなければならないことは山積みです。
ですが、この商品をはじめの一歩として、
地域に根差した化粧品製造所をもつことに近づければと思います。